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新しい生活⑳

「だって、小学校二年くらいのとき来ただけだもん!」


 笑われたことに対して遺憾の意を述べてみると“普通もっと来るだろう”と言われたけれど、それはロンを飼い始めて人工的な遊技場なんか行くことがなくなったから仕方がない。

 いいえ、正確には“仕方がない”のではなくて“仕方がなくなった”なの。

 だって、ロンのような大きな犬を連れて入れるところって限られるでしょ。

 たしかに他の家族と違い、夏休みやゴールデンウィークに遊園地に行くこともないし、新幹線で遠くの街に遊びに行くこともない。

 でも、私はそれを詰まらないとも不自由だとも思わない。


「鮎沢ロン。だもんな」


 江角君が苗字付きでロンの名前を言ってくれた。

 そう、ロンは私の家族。

 弟なのだ。

 弟に嫌な思いはさせられない。

 だから自ずと、ロンを喜んで受け入れてくれる所にしか連れて行かない。


“鮎沢ロン……”


 改札を潜り、折角だからシーサイドラインに乗って福浦キャンパスを見ながら帰ることにした。

 ガラガラに空いている車内。

 出発して直ぐに、マリーナの橋を渡る。

 向い合わせの席を海の見える方に座っていて後ろを振り返ると、そこにはさっきまで二人でキスをしていた歩行者用の白い橋。


“あれ!?”


 さっきまで二人でいた場所と全く同じ所に、私たちと似た二つの影が立っていた。


「何見ているの?」


 江角くんに聞かれて、あの二人を指さそうとすると、いつの間に居なくなったのかそこには白い橋しかなかった。

 それから福浦キャンパスの前を通り、新杉田で電車を降りた。

 目の前の景色は、さっきまでの自由というテーマが似合う街から、不自由の象徴のような工業地帯へと変わっていた。

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