新しい生活⑲
春の夜。
海風が、生暖かく肌を濡らす。
囃し立てるように、海鳥が鳴く。
どのくらい、そうしていたのだろう?
江角君の体から離れた途端、膝が抜けたようにガクガクして立っているのが精一杯だった。
だけどそんなに弱い自分を見られたくなくて、橋の欄干に手を乗せて海風に髪をなびかせる。
今夜、一度目のキスは優しくてとろけそうだった。
そして、二度目のキスは激しくて燃えるよう。
どっちが好きかな?
なんて、まだボーっとしている頭で考えていた。
でも“どっちが好き?”って聞かれたら、私は屹度こう答える。
『どっちも好き』と。
「ごめん」
私が黙っている事を気にしているのか、何故か江角君が謝ってくれた。
「ううん。何でもないから謝らなくてもいいよ」
私が微笑みながら、そう答えると、そっと私の横に肩を寄せて並んでくれた。
カーディガン越しに伝わってくる愛しい人の感覚が、私を甘く痺れるような余韻へ導く。
江角君の広い方に頬を乗せて“好き”と呟くと、優しく肩を抱いてくれて三度目のキスをした。
軽く優しくて、ほんのりと甘い。
でも、これって癖になりそう。
こんな所で、こんなことを許してしまう自分自身を不思議に思い、急に怖くなり軽く江角君の胸を押すと、それが分かっていたかのように何の抵抗もなく体を話してくれた。
橋の欄会に手を駆けたまま靴でトントンと地面を叩いてみる。
大丈夫、もう歩けそう。
そのことを確認してから“帰ろうか”と言ってみると、江角君は“遅くまで、ゴメン”と返したので“いいよ”と答えてから、その腕に止る。
駅は、私が思っていた橋上駅ではなくて、一階に駅の改札があり、そのことを江角君に話すと笑われた。





