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新しい生活⑰

「     から」


 もう一度江角君が何かを喋ったけれど、今度は橋の下を通るレジャーボートのエンジン音に掻き消されてしまった。

 珍しく苦虫を噛み潰したような江角君の顔を、一体どうしたのだろうと、首をかしげて覗く。

 江角君は何を思ったのか、そんな私と目が合うなり急にソッポを向いて背を向けて、こう言った。


「鮎沢が居るから」と。


 んっ?

 何で、私が居ることと江角君が将来医者になることへの悩みが関係あるのだろう。


 何もわからずに立ち尽くしている私に江角君は、ゆっくりと振り向いて真直ぐに私を見て微笑む。


「俺、鮎沢のそう言うところが好きなのかも」


 えっ。

 そう言うところって、どう言うところ?

 私いま、何かした??

 自問自答を繰り返し、オドオドと焦っている私を不意に江角君が迫ってきて、強く抱きしめられた。

 さっきの海岸では優しく抱きしめてくれたのに、今度は息が苦しくなるくらい力強い。

 それはまるで、逃げて行く私を引き留めるみたいに。


「鮎沢と居たい。中学や高校の時と同じように、ずっと一緒に居たい」


 本当なら、江角君の話を受け止めて一緒に考えてあげるべきなのかも知れないけれど、抱きしめられた強さと“私と居たい”と言ってくれた言葉に火が付いたように心が燃えて、いまは何も考えられない。

 もっと江角君を受け入れられるように、抱きしめてくれる江角君の腕の下から手を回して、負けないくらい強く抱きしめる。

 そして江角君の心に届くように、顔を広い胸に埋める。

 もう、汽笛の音もレジャーボートや遊園地、電車や車の音すら聞こえない。

 胸に埋めた耳に届くのは、力強くて早鐘のように激しく規則正しく鳴る心臓の鼓動。

 大きな手が、私の背中から首に上がり髪を撫でる。

 その動きにつられるように、埋めていた顔を上に向ける。

 黒く輝く星がふたつ。

 その星の輝きを胸に仕舞い込むように、私は目を閉じた。

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