新しい生活⑰
「時間いい?」
階段を登ったあと、直ぐに気が付いた。
この階段が駅に続いていなくて反対岸にあるマリーナに繋がっていること。
「どこに行くの?」
「どこにも行かない。……鮎沢とここからの景色が見たくなった」
潮風に吹かれながら二人並ぶ。
いま江角君はマリーナやシーパラダイスを見ているのではなくて、屹度その向こうにある医学部のキャンパスを見ているのだろう。
さすがに付属病院も有って学舎も背が高くて近代的に見える。
ここに来て、何も喋らないで景色だけを見ている江角君。
そんな江角君の横顔を眺め、不安になった。
「マリーナの向こうに見えるのが医学部ね。いま通っている校舎と違って建物が高くて格好良いなぁ~」
江角くんに元気を出してもらおうと思い、明るく元気な声で喋りながら、自分の声が空虚で空しいものに感じた。
私の言葉はそれ以上何も続けられず、それに対する江角君の返しもない。
潮風が髪を撫でる。
海鳥の鳴き声とボートの音。
それに波の音。
地上に光る沢山の灯と、夜空に瞬く少しだけの星の明り。
不用意に喋ったばかりに、余計静かな時が長引く。
「俺、本当は迷っているし、鮎沢のこと羨ましい」
沈黙を破るように話し始めたその言葉に、驚いて振り向くと江角君は潮風に髪を撫でられたまま、さっきまで私が見ていた世界よりも、もっともっと遠い何かを見つめていた。





