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新しい生活⑰

 長い抱擁の後、砂浜を八景島まで歩いた。

 それは世界中の時間が止った中で、私たち二人だけが動いているみたいな不思議な夢の世界。

 二年から福浦キャンパスに移ってしまう江角君が言ってくれた一年間の“二人だけの吹奏楽部”は、私と居る時間を大切にしたいからだと伝えてもらい嬉しくて涙が零れた。

 こんなに素敵な人が、私だけを見てくれている。

 西の空にまだ残っている金星が焼けてしまうくらい、大胆に江角君の腕に自分の腕を絡ませて歩く砂浜は、今夜二人のために用意されたバージンロード。

 いつまでも、この砂浜が続けばいい。

 私たちが星に近づくまで。


「今度の休み、あの河原で一緒に練習しないか?」


 砂浜が途切れてコンクリートの公園になったところで江角君に言われた。

 答えは、もちろんOKだけど、妙に緊張する。

 だって私程度のオーボエで、江角君のトロンボーンにデュオで着いて行けるのだろうか。

 木管同士なら何度も経験があるけれど、オーボエとトロンボーンのデュオって、どんな曲をどのように演奏すれば良いのだろう。


「大丈夫。屹度、鮎沢のほうが上手いから心配すんな」


 私の不安を気遣って、そう言ってくれる江角君。

 でも、絶対江角君の方が上手い。

 それに、ピアノも弾けるし……。


“そっか、ピアノか!”


 ピアノなら、どんな楽器にも合わせられる。

 春の木漏れ日のさす河原。

 緑の絨毯の上に置かれた真っ白なグランドピアノを弾く江角君。

 その横に並んでオーボエを演奏する私。

 まるで映画みたい。

 私が妄想している間にも、駅は少しずつ近づいて来て橋上駅の階段に足を乗せた。

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