新しい生活⑭
遊歩道から外れて波打ち際を歩く。
静かな波の音が、今は怖く感じる。
誘ったくせに、なかなか話を切り出さない江角君。
屹度、緊張しているのだ。
「ロンを連れて来たら楽しいだろうなぁ」
「えっ」
江角君の今の反応で、少し場違いな話を始めたと思ったけれど、ロンのこと以外に当たり障りがなく咄嗟に出る話はない。
「ロンは余り水を怖がらないから海で泳いだり出来るかも」
「泳がせたことないの?」
「うん。川は流れがあって危ないでしょ。それに色んなものが落ちているから離せないわ」
「犬と一緒に海水浴のできる所探して、ふたりで行ってみない」
急に“ドン!”と一際大きく心臓の鼓動が鳴った。
海水浴に誘われただけでも嬉しいのに、そのうえ“ふたりで”と言う言葉まで付いたんですもの。
「ゴメン。調子に乗りすぎた……」
ドキドキして直ぐに返事を返せずにいる私に、江角君はそう言って拾った石を海に水平に投げた。
ピョンピョンと水面を跳ねる石。
“言わなければ、伝えなければ、今のこの気持ちを。でも、どうしてそれを言葉に出せばいいの?”
なかなか伝え方が分からなくて、戸惑っている私。
その私に背を向けるように、海を見ていた江角君から名前を呼ばれた。
「鮎沢……」





