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新しい生活⑫

 慌てて改札の方へ走ってみたけれど、もう江角君は居ない。

“どうしよう……”

“そうだ、ここは始発駅!このままSuicaを使って電車に飛び乗れば、どこかの車両に乗っているはず。

 そう思って、慌てて改札に駆けだそうとした時、大きな優しい手が私の手を掴み名前を呼ばれた。


「鮎沢!」と。


 驚いて振り向いた私に、江角君は切符を渡す。


「これ……」


 戸惑いながら切符を見つめる私。


「ごめん、俺の我儘に無理やり付き合ってもらうから」


 珍しく、少しおどおどしながら話す江角君。


「いいのに。私も江角君と一緒に居たかったんだから」


 調子に乗って、つい本音を言ってしまってから“マズイ”と思った。

 だって、この返しだと、まるでオバサンみたい。

 口に出してから、急に恥ずかしくなり俯いて、恐る恐る江角君の顔を覗くと何故か江角君も少し照れている様子だった。

 江角君に続いて改札を通り、電車に乗る。

 シーサイドラインは普通の電車とは違い、車輪が鉄ではなくてゴムのタイヤ。

“ゆりかもめ”やケーブルカーのように高架の上を走る新交通システム。

 音も静かで、優しくて滑らかに出発する。

 あいにく席が埋まっていたので、窓に向かって並んで立っていた。

 出発してすぐに綺麗な夜景が広がる。


「綺麗!」


 窓の向こうに写し出される景色に感動しながら、その景色に透けて見える江角君を見ていた。

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