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新しい生活⑨
いま颯爽と私たちの上を横切って行った鳥は、屹度さっきまで空に引っ掛かるように飛んでいたあの小鳥に違いない。
命の短い者たちは、必要なことは直ぐに会得してしまう。
生まれたばかりの馬が直ぐに立って走り出すように、鳥だって羽が生えそろえば直ぐに飛ぶ。
でも、鳥には勇気が必要だ。
産まれて初めての飛行が、高い巣の上からダイブなのだから。
なんだか小鳥の事を思うと勇気が湧いてきた。
飛び立つ前から臆病になっていた私。
春に包まれた爽やかなベンチ。
青空の下で沢山の音を聞き、その中から知らず知らずのうちに、小鳥の囀りを選んでいた。
そして、私の悩みに道を差し伸べるかのような駅の曲ベル。
この様々なこと全てが江角君の気遣ってくれたことから始まった“産物”
そう思うと嬉しくなり、膝の上に置いた手を江角君の手へ伸ばす。
触れた私の細い手を、江角君の大きな手が優しく包んでくれた。
「頑張ろうな!」
「はい」
私は、この優しさにズット包まれていたくて、そのまま江角君の肩を借りて目を瞑る。
江角君は何も言わないで、私が離れるまでそのままで居てくれた。





