新しい生活⑦
横浜駅で里沙ちゃんと、それから大学のある駅で伊藤君たちと別れて江角君と二人並んで歩いていた。
電車の中で里沙ちゃんに気遣ってもらってから、努めて明るくしていたけれど“大学に何をしに来ているのか”と言う思いが心から離れないままでいる。
正門を過ぎて校舎が近くなる。
「ちょっと座って話さない?」
グラウンドで大きな声を上げて練習している声に押されて、一瞬聞き逃してポカンとしてしまった私に反対側にある一号館を指さした。
事務棟を抜けて広い中庭にある、池の傍のベンチに腰掛けた。
“一体何だろう?”
江角君はベンチに腰掛けると、背伸びをするように腕を大きく空に伸ばしてから、それを頭の後ろで組んだ。
「鮎沢も背伸びをしてみるといいぞ、気持ちが空に抜けそうなくらい軽くなる。背は伸びないけど」
その言い方が可笑しくてクスッと笑ってしまい、同じように背伸びをしてみた。
眼を閉じて背伸びをして顔を空と向き合わせると、太陽の光が心地好い。
さっきまで乗っていた路線を、違う電車が走って行く。
運動部の掛け声やホイッスルの音、様々なボールが打たれたり蹴られたり弾んだりしている音。
コーラスの声や楽器の音。
教室の椅子を引く音から廊下を走る音、生徒たちの話声。
船の汽笛に、飛行機のエンジン音。
ただ目を閉じて仰向けになっているだけで、こんなに沢山の音が耳に届いて来る。





