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春の桜道⑨

 夕焼けが高揚した頬の赤さを隠す。

 歩きにくい砂浜の道がふらふらして覚束ない足取りを自然なものに変える。

 波の音が聞こえそうなくらいドキドキと脈打つ心臓の鼓動を消す。

 暗がりの道が俯いて歩くことを許してくれる。

 生まれて初めてのキス。

 しばらく手を繋いで砂浜を歩き江ノ電の七里が浜駅まで歩いた。

 国道134号線を渡って直ぐにある駅に着くと、夕焼けを背景にした江の島と富士山が見える。

「江角君。富士山」

 人影のないホームで、隣の江角君にそれを指さして振り向くと抱き寄せられた。

 ごつごつした男の人の腕に包まれる。

 江角君の真剣な目が私を捉える。

 そして熱いくちびる。

「嫌……」

 軽く唇が触れた途端、拒んでいた。

「ごめん」

 江角君が謝ってきたけれど、なんて答えれば良いのか分からない。

「中学の時からずっと好きだった」

 それは中学三年の時に告白されたから知っていた。

 でも、なんで私だったの?

「正直言うと、中学一年生の時から好きだった。いや好きになった」

 江角君は私が指さしていた西の空を見ながら話してくれる。

「最初は、ろくに楽器も出来ないくせに難しいオーボエを選んで、正直バカな奴だと思っていた」

 バカな奴なんて、失礼ね。

 でも確かにあの時の私はロクに演奏も出来ないで足手まといだったし、実際あの頃の江角君は怖いくらい失礼な人だった。

「すぐ辞めると思っていたら、凄いペースで上達して驚いた。いったい何があるんだろうって興味を持った。凄く上手な先生に付いたって、そんなに早くは上達しないし第一楽しそうになんて演奏出来やしない」

「そうなの?」

 思わず口を挟んでしまうと、江角君は優しく笑って「そうだよ。上手い先生は厳しいから音楽自体が嫌になる」と苦笑いしながら教えてくれた。

「ある日、君をつけた」

 驚いて江角君の顔を見上げた。

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