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春の桜道⑧
「鮎沢」
頭を江角君の肩に乗せて一緒に夕日を見ているとき、名前を呼ばれた。
「ん、なに?」
「いや、なんでもない。それより寒くないか?」
「ううん。江角君意外に温かいから」
「そ、そうか」
江角君の手が私の肩に置かれる。
「んっ?」
私は預けていた頭を起こして、江角君を見る。
いつも通りの涼しい目に、今日は夕日が写って燃えている様に見える。
赤い涼し気な目が心なしか近づいて来る。
それはまるで火星、いや木星が接近してくるよう。
私は目を閉じた。
目を閉じて見えるのは、広い大宇宙。
そのなかを今、木星に着陸する。
まるで映画で見た“2001年宇宙の旅”みたいに空間がグルグルと回る感覚。
宇宙船から放り出そうになる私の背中を、江角君の手が優しく支えてくれる。
その感覚は宇宙船から鹿鳴館のような会場に映り、二人でダンスを楽しんでいるような感覚。
江角君が求める分だけ私は受け入れ、私が求める分だけ江角君が受け入れてくれる。
頬の焼ける熱さに耐え切れなくなった私が江角君の体を押す。
背の高い江角君の体は思ったより軽く、ふわりと私の体から離れた。





