春の桜道⑦
家がお医者さんだからか江角君は医学部を受け、そして私はなんとなく同じ大学の国際教養学部を受けた。
特に大学に入って何がしたいとか、将来何になりたいと言うものは全く思い浮かばなくて、2020年に東京オリンピックがあるから“国際”という名前だけで学部を選んだ。
だって親の職業が鶴岡部長や江角君みたいにお医者さん系で長男なら、自ずと自ら進むべき道も分かるだろうけど、我が家のお父さんは普通の会社員だし。
まあ、将来就職で役に立ちそうな学部っていうことかな。
帰りの電車に乗っていたら珍しく江角君が鎌倉の鶴岡八幡宮に行かないかと誘ってくれたので、行くことにした。
もう正月はとっくに過ぎているので閑散とした境内。
階段を登ると海が見える。
二人で合格祈願をして、有名な甘味処に寄って“ぜんざい”を食べる。
そのあとは江ノ電に乗り稲村ケ崎で一旦降りて二人で海を見た。
小学校の卒業式に“はるかなる海へ”を歌ったことを前に皆に教えたことを江角君は覚えていてくれて、ホンノ少しだけサーファーの人たちがいる砂浜で一緒に歌った。
しばらく海を見ながら中学や高校、そしてロンの話をしていたら、あっと言う間に時間が過ぎて、空が赤くなっていた。
近くの江ノ島の向こうに富士山も見えて、それが赤く染まり何ともロマンチック。
そう言えば、鶴岡八幡宮から甘味処、そして海の見える砂浜でお喋りしながら夕日を見る。
なんとなく映画や小説に出てくるデートみたいだなと思うと妙に恥ずかしくなって隣に居る江角君の顔を覗く。
江角君は真直ぐに夕日を見ていて、その目が心なしか潤んで見えた。
「もう、高校も終わりなんだね」
私も寂しくなって、そう言って江角君の肩に自然に頭を横たえた。
「んっ」
江角君からは返事ともため息ともつかない短い言葉。
疲れた体。
江角君に寄りかかると落ち着いて来るし、何だか体がフワフワとした不思議な気分。
未だ春の来ない肌寒い砂浜にホッコリ現れた“江角君ストーブ”
そう考えると、自分でも可笑しくてハイになっているのが分かった。





