春の桜道①
金賞受賞に浮かれていた分、片付けが遅くなってしまい大変だったけれど、これは鶴岡部長をはじめとするOBと甲本君や美樹さん、そして兄と茂山さんなどが手伝ってくれて意外に早くバスに積み込むことができた。
こういう時にはロンは全くと言っていい程役に立たない。
好奇心に駆られてウロウロしてしまうので、瑞希先輩にズット面倒を見てもらっていた。
唯一ロンが役に立った事と言えば、大急ぎで片付けなければいけないピリピリしたムードを和らげること。
ロンの傍を通るときに撫でてあげたり「危ないよ」と話し掛けるだけで、皆心に余裕が持てるみたいだった。
荷物の積み込みが終わると、私たちも慌ててバスに乗り込み帰路に就く。
足立先輩たちや茂山さん、鶴岡部長に見送られながらつくづく思う。
“ここまで来れたのは皆のおかげだと言うこと”
鶴岡部長が木管大戦争を許さなければ、足立先輩や山下先輩と仲良くなることはなかったかも知れない。
甲本君がいてくれたからライブ活動も思いついたし、茂山さんが車を出してくれたから、それを実行に移すことも出来た。
美樹さんが居てくれたから、辛い時に星に向かって話し掛けたりして気を紛らわすことも出来たし、美樹さんの頑張りが分かるから私も弱音を吐かなかった。
お父さんお母さん兄に見守られていたからこそ平穏に暮らすことができた。
そして同じバスの中の皆の協力があったからこそ目標を達成する事が出来た。
そのなかでも特に里沙ちゃんと江角君。
里沙ちゃんはバスが出発して、しばらくお喋りしていたけれど急にコロッと寝てしまった。
周りを見渡すと他の部員も殆ど全員と言っていいくらい皆寝ていた。
後ろを振り返ったとき江角君と目が合った。
江角君は振り向いた私に少し驚いた表情を見せていた。
いつもなら目が合うと恥ずかしくて直ぐに逸らしてしまう私だけど、この時は何故かズット江角君と目を合わせたままでいた。
ふと、中学のとき江角君に言われた言葉を思い出す。
“俺が好きなのは鮎沢、お前だ”
今でも、その想いは変わらないのだろうか?
普段なら、こんな恥ずかしいことを考えると顔が赤くなったりするのに、今は平気だった。
私の問いかけが分かったのか、江角君がコクリと目で合図してから俯いて目を離す。
私も振り向いていた体を元に戻し、真っ暗に塗られた窓の景色に目を移した。
窓の景色に映りこむ私は、もう中学生の頃の私ではなく大人びて見えた。





