分かち合う喜び⑫
長いコンクリートの廊下を走る。
早くロンに合うために。
私たちの演奏は届いただろうか?
そう思えるほど会場の外は喧騒に包まれていた。
それでも屹度ロンは聴き分けてくれたはず。
ロンを信じて、そしてロンに会いたくて一目散に走る。
外の広場の奥、日の当たる騎馬像の前に居た。
その姿は、まるでその騎馬の忠実なお供として飼われている様に見え、その姿は今にも天高く登ってしまいそうに見え、急に涙が溢れてきた。
止めどない涙に目標が定まらずよろめくとロンが駆けて来た。
それまで置物の様に皆の間で、かしこまっていたロンが、その大きな丸い瞳で私を捉えたまま一直線に。
広場の中央付近で私たちは立ち止まった。
ロンは傍まで来ると高くジャンプして、私はそれを受け止める。
何度も何度も私の顔を舐めようとして、高くジャンプするロン。
最初は胸で受け止めていた私も少しずつ腰を降ろして、その要求を受け入れる。
顔がくすぐったい程舐め回してくるけれど、今日は押し倒しては来ない。
舐めているときでもロンの目には私が映し出されていた。
「ありがとうロン。演奏はチャンと聞こえた」
涙声で聞く。
聞かなくても分かっているのに。
“ありがとうロン”ロンをクシャクシャに抱きながら涙が止まらない。
「よかったな、鮎沢」
「ロン、千春お姉ちゃん頑張ったよ」
ガヤガヤと私たちを取り巻く声に驚いて顔を上げると、皆が私たちを囲んでいた。
鶴岡先輩や美樹さんと兄、お父さんとお母さん、先輩たちに茂山さんと里沙ちゃん、それに甲本君に伊藤君たち。
伊藤君が言った。
“感動屋の鮎沢が、曲が終わってもいつものように泣き出さないと思っていたら、感動のポイントはここだったのか”と。
それを聞いて皆が明るく笑い、私たちも落ち着いてきた。





