分かち合う喜び⑨
古矢京子の居るS女は午前中の演奏。
難易度6+の曲を難なく演奏するその姿は、まさに名門の名に恥じない立派な物で、会場の雰囲気はS女色一色に染まる。
ハラハラするどころか、まるでプロのコンサートに来た気分。
そのなかでも美人の古矢京子は一段と生えて見える。
“京子ちゃんは将来屹度、有名な音楽家になる”
そんなことが自然に心の中から湧いてきて、ワクワクしながら聞いていた。
S女の演奏が終わり、お昼休憩を挟んで直ぐに私たちの番。
沢山食べると気持ちが緩くなってしまうので、お昼ご飯は食べずに軽くおやつを食べて余った時間を練習に使った。
係りの人に準備をするように言われて練習を止めた。
「いよいよだね」
練習の手伝いをしてくれていた足立先輩がそう言うと皆の楽器を準備する音が一瞬止まる。
緊張の糸が、これでもかと言うくらいピンと張り詰めているのが分かる。
でも、この緊張の糸は決して切れはしないことを私は知っている。
もちろん部員もOBや先生たち関係者も。
ここまで練習の積み重ねて作った緊張の糸は細くはない。
どんなに強く弾いても切れることはなく、張り詰めたぶんだけ逆により一層高くて澄んだ音を奏でられる糸になった。
その自信をもって壇上に向かおう。
「よし。みんな行くよ!」
里沙ちゃんがソフトボール時代を思い出させるような、体育会系独特の元気な声でみんなに勇気を伝える。
「ハイ!」
みんなからも、それに応えるように大きな返事が返って来た。





