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分かち合う喜び④

 広い観客席に座っているのは、私一人。

 周りを見渡していて再び驚いた。

 あの観客席にいた人たちが全員楽器を持って壇上に上がっている。

 そして、壇上の二人をお祝いするように囲み、同じ“風笛”の演奏を始めた。

“風笛”のメロディーに流され、いつの間にか私の席は最後尾から一番いい中央通路に面した真ん中に移動していた。

 気が付くと、あの白い犬が居ない。


“どこに行ったのだろう”


 と辺りを見渡していると、中央通路の正面から見慣れていた姿が近づいて来る。

 その姿を捉えたとき、居ても経っても居られなくて席を立った。

 ゆっくりと近づいて来るその姿に吸い込まれるように、私もまた一歩一歩近づいて行く。

 それ程大きいホールではないはずなのに、お互いがどれだけ歩を進めてもナカナカ私たちの距離は近づかない。

 このままでは、いつまでも合うことができないのではないかと焦って走った。

 私が走り出したことに驚いたのか、向こうは一瞬立ち止まる。


“早く受け止めたい”


 そう思い、私は叫ぶ。


「ロン!」


 その声に、ロンも駆けだす。

 嬉しそうに瞳を輝かせ、私から一瞬も目を離そうとしない懐かしいその姿に涙が溢れ、それを風がさらって行く。

 

「ロン!」


 もう一度言った。

 ロンが飛びついてきた。

 冷たくない、暖かいロンの体に触れる。

 私の顔を舐めまわすロン。

 ロンの体を撫でまわす私。


「ロン!ロン!ロン!」


 撫でながら何度も何度も懐かしいその名を呼ぶ。

 

 いつの間にかホールには誰も居なくなり、それでも曲だけは流れている。

 天井が抜けてしまったように、空から光が差し込み私たち二人を暖かく包み込む。


「待っていてくれたんだね。随分と長い間、私の事忘れないでいてくれたんだね。ありがとうロン」


「一緒に行こう」


 ロンは“うん”と言うように私を引いた。

 正直、光の中へ飛び込むことは怖かったし、勇気もなかった。

 でも、ロンが居てくれた。

 ロンが迎えに来てくれた今では、何にも怖くはなくて寧ろ希望が溢れて来る。

 そして、私はロンに引かれるまま光の中へと飛び込んだ。

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