最高の輝きに向かって⑨
走ったのは車の通りがない最初の少しの距離。
高い塀のある路地や曲がり角のある道にさしかかるとロンに“付け”の指示を出して歩く。
ロンは不満も言わないで指示に従い私の隣に並んで歩き出す。
“チャンと言うことを聞いたよ”
とでも言うように、ロンが私の顔を見上げる。
その仕草と、ほぼ同時に私はロンの事を褒めてあげるため屈んだので、見つめ合うことになる。
「いつまでも男前ね」
頭を撫でながら家に来た時に比べて、少しだけ大人になったままの精悍なロンの容姿を褒めるとロンは照れたのか私の膝に顔を隠そうと俯いた。
明日の出発時間は早いけれど、移動のバスの中では寝ることができる。
だから、今夜は時間を気にせずにゆっくりと散歩を楽しむことに決めていた。
“戦場に向かう前の、つかの間の休息”って言ったら格好良すぎるかも知れない。
だけど今夜は部員の多くが、そう過ごして居ることだろう。
いつものベンチに腰掛けて星を見る。
私が空を見上げると同時に、ロンも夜空を見上げた。
でもいつも通り、ロンの持ち上げられた顔は私の方へ向いて止まる。
こうして見られているだけで心が落ち着き癒される。
私は、時にはアイドルとか俳優さんに熱を上げたりするけれど、ロンはいつも私だけを見ている。
もちろんマリーやラッキーと遊んでいるときは楽しそうだけど、そんな時にでも私の事を忘れないでいてくれる。
星空の中に幾つもの飛行機が翼端灯を点滅させながら飛んで行く。
私もいつかはあの飛行機に乗る日が来る。
でも、ロンはいつまでも空を飛ぶことはないのだと思うと、涙が零れてきた。
「帰ろうか」
そう言ってベンチを立った時、珍しくロンが私のお腹に前足を掛けて飛びついた。
そのまま、もう一度ベンチに腰掛けるとロンは膝の上で甘え、しばらくの間ロンの頭を撫でていた。





