最高の輝きに向かって④
「そう。正直、この提案のひとつとしては私の個人的な欲もある。それは貴方たちが、どこまでやれるのか観たいというもの」
今“ひとつとして”と言う言葉が入った事に、妙に心に引っかかっていると、中村先生は“もうひとつ”の理由も話してくれた。
全国大会は、特に金賞の数に制限があるわけではない。
頑張ってきたのは全国大会出場校だけではなく地区大会・県大会で惜しくも敗れたところも皆同じ公平な審査で結果が出た。
だから全国大会でも同じように審査が行われる。
必ずしもマーチ・シャイニングロードに金賞を狙う上で不都合があるわけではない。
逆に金賞を狙うにふさわしい曲だと思う。
今日、東関東大会での演奏は最高だった。
うまく全体のピークをここに持って来れたと先生たちは感心して聞いていた。
それと同時に恐ろしい不安も感じた。
それは、全国大会にもう一度このピークを持って来れるだろうかということ。
高校生はプロではない。
五十人以上の編成で、皆のピークが揃うことも稀なのに、それを維持することは無理だろう。
まして都合よく大会に向けてピークを持ってくるなど、まぐれを期待するしかない。
万が一、全国大会で再び今日のような演奏ができたとしても、全国大会常連校がぶつけて来る自由曲はグレード五や六という難易度の高いもの。
そこにグレード四で挑んでも、結果は難しいだろう。
「今日の出来なら、全国大会でも銀は確実に取れると思うから」
最後に中村先生は、そう言って音楽準備室を出て行った。
判断は私たちに託された。
薄暗い音楽準備室に時計の音だけがやけに響く。
机の上には散らかされた何枚もの譜面。
そして私の隣には江角君。
その江角君の手が優しく私の肩に乗せられる。
いつもの“ポン”という感覚ではなかった。
私がハッとして振り向くと、背の高いはずの江角君の顔が、やけに近く感じられた。





