冷たい水⑥
甘ったれていた。
京子ちゃんと電話で話していて、まるで冬の朝に冷たい水を顔に掛けられたように目が覚めた。
“私の考え方では金賞はおろか、全国大会にも行けない”と。
高い目標を掲げるのは自由。
でも、本当にその目標をやり遂げるつもりなら、非情でなければいけない。
こんな私でも、部員たちにとっては“部長”だ。
良い時も悪い時も、皆が私を見ている。
私の心が中途半端だと、みんなの心も揺れ動く。
県大会の後、中村先生が言った“こんなんじゃ全国大会には行けない”と。
演奏自体は上出来だと思っていたので、言われたことが実際はピンと来なかった。
でも、あの日の私自身を思い返すと、緊張し過ぎて自信を失っていた。
そして、それとは反対に、中学時代の友達と合って妙に緊張感が緩んでみたりと、気持ちが行ったり来たり。
自分たちの演奏が終わり、その出来栄えに不安があった。
“完璧”だったはずなのに。
伊藤君たちの演奏を聴いて、なにかヒントをもらった気がした。
そのとき私が感じたものは、もっと難しい曲に挑戦しなくてはいけないのではないかと言うことだった。
しかし、それは違った。
伊藤君たちの演奏が素晴らしかったのは、難しい曲をハラハラさせながら聴かせていたからではなく、難しい曲と言う荒波の中を全員で自信をもって真直ぐに進んでいたから。
言ってみれば、そのときの私たちは穏やかな海原で優雅にパーティーしながら進んでいるようなものだったのだろう。
だから中村先生は怒っていたし、江角君も難しい顔をしていたのだと思う。
部員全員に言われたんじゃない。
皆の前に立って指揮する立場の私に問いかけられていたんだ。
いつの間にか、ロンが膝の前でお座りをして私を見ていた。
「ロン、ゴメンね、また忙しくなっちゃうから」
ロンは“分かっているよ”と言うようにワンと吠えてくれ、それから二人で全力疾走して家まで帰った。





