冷たい水⑤
落ち込んだ気分のまま、ロンと夜の散歩に行く。
いつものベンチに腰掛けて休憩をしていると、携帯が鳴った。
S女の京子ちゃんからのメール。
内容は、県大会突破をお祝いするもの。
こんなに離れているのに、気にかけてくれている事が嬉しい。
西の空に飛んで行く飛行機が見えたとき、古矢京子に相談してみようと思った。
通話ボタンを押すと、彼女は直ぐに電話に出た。
「もしもし、鮎沢です。お久しぶりです」
「うわぁー。千春から電話貰えるなんて嬉しぃ」
夜遅いのに、京子ちゃんはいつもの明るい声で応対してくれる。
でも、私が今困っていることを相談すると、その声は少し曇った。
「ごめん。折角相談してくれたけど、プライベートとか正直分からないわ」
どういう意味だろうと思って話を聞いていた。
「S女は毎年全国に出続けて、金賞取り続けるのが最低限の仕事だと皆思っているし、そのためには自分が何をしなければいけないかも皆分かっているから、プライベートとか考えたことないよ。それに、そんなこと考えていたら、あっと言う間にメンバーの椅子が無くなるよ」
「それに……酷い事言うようだけど、そんなことが本当に心配なことだとしたら、残念だけど全国には行けないよ。だってもっともっと必死にやっているところなんて一杯あるんだから」
確かに、その通りだと思った。
名門だから、そうなんじゃない。
全国に出る目標を掲げたからには、全て生半可な気持ちでは済まされないのだ。
「ごめんね。なんか偉そうなこと言っちゃったけれど、少なくともウチでプライベートを優先させたいって部員は居ないと思うから」
最後に付け加えられた言葉。
そう。
私たちも、京子ちゃん達と同じ目標を掲げているんだ。





