冷たい水①
帰り道。
ズーっと、今日の里沙ちゃんの事を考えていた。
どうして泣いていたんだろう?
どうして茂山さんが代わって演奏していたのだろう?
そして、どうして茂山さんは里沙ちゃんのサックスを使っていたのだろう?
最後の問いは、意外に簡単な理由かもしれない。
里沙ちゃんの代役で演奏することになったけれど、楽器を持ってきていなかったので借りた。
マウスピースの問題もあるけれど、しっかり洗って返してくれれば問題はない。
そう考えると、二番目の問いも簡単な理由で、里沙ちゃんが何かの理由で演奏できなくなったとき、あそこに居るメンバーの中で他にサックスを演奏できるのは江角君と茂山さん。
江角君がサックスを演奏すると、トロンボーンが居なくなるので必然的に茂山さんに応援してもらう。
やっぱり今日一番の問題は、どうして里沙ちゃんが泣いていたのか?
考えながらドアを開けて、靴を脱いで玄関を上がる。
「ワン」とロンに吠えられて、初めてロンに気が付いた。
「ごめんね~。考え事していたの」
折角、私が戻るのを楽しみにしてくれているのに、つれない態度を取ったことを謝り、その場に腰掛けてロンを撫でた。
「いいよ」と言わんばかりにロンは、じゃれて来て遊んでくれる。
私の笑顔が曇っていることに気が付いて舐めてくれる。
肩に前足を掛けられる。
そして体重を掛けられる。
“あれ?これって……”
そう、久し振りにロンに押し倒された。
ロンは、そのまま馬乗りになって私の顔を舐め回す。
その行動に、なにかヒントをもらった気がした。
だけど激しく舐め回すロンは、結局そのヒントまで舐め取ってしまう。
ヒントが消えそうになり、慌てて起きようとしたけれどロンに押さえつけられて起きれない。
もう高校三年生だと言うのに、まだロンに敵わない。
結局、昔と同じように、足をバタバタさせて救援を呼んだ。





