コンサート⑩
里沙ちゃんが泣いている。
あの元気いっぱいな里沙ちゃんが何故泣いているのか考えるよりも、驚きのほうがはるかに大きかった。
隣に並んでいる里沙ちゃんの肩に手を乗せて引き寄せる。
里沙ちゃんは、ちょっと驚いたような顔で一瞬私の方に顔を向けた。
私は里沙ちゃんの方は向かずに、優しくその頭を肩に乗るように導くと、思ったより素直に肩が暖かくなる。
「寒くない?」
「ううん、涼しくて気持ちいい」
もしも立場が逆だったら、里沙ちゃんはもっと気の利いたことを言って私を励ましてくれることだろう。
だけどゴメンね。
私には、このくらいしかしてあげられない。
「千春の肩って、思ったよりも暖かい」
「うん」
紫色に染まる空の下に、ぽつぽつと白い星が街を彩りはじめていた。
ムーンライト・セレナーデのメロディーが心に染みる。
江角君のトロンボーン。
宮崎君のトランペット。
それとハモる、加奈子さんのトランペットも様になってきた。
甲本君の言う通り高橋さんはドラムの才能が有る様だし、今川さんは休みも取らずホルンを演奏している。
女医さんのピアノも綺麗で優しい音。
そして、このサックス。
サックス……。
サックス?
サックス担当の里沙ちゃんは私の肩の上。
えっ、今誰がサックスを演奏しているの?
私の振り返ろうとする首に、里沙ちゃんが優しく腕を絡めて言う。
「もう少し、このままでいさせて」と。
私は肩の上に乗せた里沙ちゃんの頭に、ゆっくり自分の頭を置いた。





