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コンサート⑨

 今日は病院の休診日で、病院の広間がコンサート会場。

 私たちがハンター邸と呼んでいるだけあって、患者さんの居ない真っ白な広間は、まるで美術館かホールを連想させるほどの趣がある。

 いつもとは違う配列に並べられた椅子には、日頃この病院に通っているお年寄りや小さい子供を連れたお母さんたちで満席。

 予め来場する年齢層を聞いていたので、木管チームは本格的なクラシックは避けて“隣のトトロ”など良く耳にする曲を演奏し、金管チームもディズニーの曲を中心に前半は楽しい曲を、そして後半はムードのある曲を演奏して観客を喜ばせていた。

 休憩時間に女医さんから楽屋として用意してもらった部屋は、あの日私が横になっていた部屋。

 もう半年以上も前なのに、あの時の花の香りや風の色などを鮮明に思い出せる。

 カーテン越しに窓の外を眺めていると、いつのまにか隣に江角君が居た。

 何も話さずに景色を眺めているのに気まずさはなく、妙に落ち着く。

 しばらくすると江角君はどこかに行って、代わりに里沙ちゃんも入って来た。

 こちらも珍しく何も話さずにただ横に居てくれるだけで安心感を与えてくれた。

 窓があって、その向こうに景色があって、しかし音はない世界。

 この世界が新鮮で心を落ち着かせてくれていた。

 しばらくすると江角君たちが演奏する“ムーンライト・セレナーデ”が、その静寂に染み込むように聞こえてきた。

 隣で微かに聞こえた鼻をすする音に振り向くと、里沙ちゃんの頬を水晶色に光る滴が一滴音もなく流れていた。

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