コンサート⑤
問題なくリハーサルを終え、本番も何事もなくクリア。
応援に駆けつけてくれた先輩たちからも、褒めてもらった。
部員みんなも、今日の演奏に満足している様子。
誰も失敗していないし、どこもおかしなところは無かったから何も心配する必要はないはず。
「完璧すぎるよぉ」
と、瑞希先輩が抱きついてきた。
「もうちょっとハラハラさせて欲しかったな、贅沢だけど」
足立先輩が私の頭をナデナデしながら言う。
確かに曲は上出来だったけれど、完璧すぎることと安定していることが私には不安で堪らない。
二人とも私の心配そうな顔に気が付いて「もっと素直に喜びなさい」と言ってくれた。
周りを見ると、里沙ちゃんや今川さん加奈子さんたちからマネージャーさんたちまで、もう県大会突破が決まったかのように喜んでいた。
そして、相変わらずこの状況に浮かれていない人が私の他にもう一人だけいる。
壁にもたれて譜面をチェックしているその姿は、まるで楽譜に間違った箇所がなかったか調べているようにしか見えない。
江角君も屹度私と同じ不安を、見い出せないでいるに違いない。
私の疑問に、ひとつの答えをくれたのが伊藤君だった。
もっとも答えをくれたのは伊藤君個人ではなく、その高校の吹奏楽部。
伊藤君たちが自由曲に選んだのはムソルグスキーの“展覧会の絵”
トランペットによる、凛とした華やかさをもったオープニングは気品と気高さを感じさせる。
それよりも、私にはオープニングを伊藤君が万が一失敗しないか、手を合わせて拝むように聞いていた。
曲を通して緊張のしっぱなしで、無事演奏が終わったときには急に緊張感から得放たれた分だけ、余計に感動が湧いてきた。





