コンサート③
「あー風が懐かしい」
「風に懐かしいなんてあるんですか?」
里沙ちゃんの言葉に、高橋さんが質問していた。
「伊藤!オマエよくそんな暇あるな」
「なにごとも余裕を持つ主義なんでね」
江角君の声に応える伊藤君。
「ホラホラ!駆けださない。お願いだから言うことをきいてぇ」
大きくなったラッキーに振り回される足立先輩と、一緒に歩いている瑞希先輩の笑い声。
「今日は、この石ころでリリズムを取ってみな」
「えーっ、石で、ですかぁ」
高橋さんを指導している甲本君。
その二人を見て笑う今川さんと宮崎君の声。
「おーっP3C!」
「おーっ!」
上空を飛んでいる飛行機を見上げて名前を呼んでいるマッサンに呼応するコバの声。
梅雨明けの清々しい朝。
今日は久し振りに河原に来ている。
毎週土日にコンサートをするようになってから部全体のレベルは瞬く間に上がった。
でも私には河原が忘れられない。
ここで演奏する事こそ、私には意味がある。
大会前、コンサートの入っていない日に我儘を言って自主練習の日にして、いつものメンバーが集まってくれた。
「ロン!」
「ワンッ」
どこに行ったのかと思ってロンを呼ぶと、散歩させてくれていた茂山さんと田代先輩がロンに引かれながらやって来る。
「ありだとうございます」
お礼を言ってリードを受け取る。
「相変わらず元気だねー、ロン」
二人が同時に言ってくれた言葉を、とても嬉しく感じる。
だってロンはもう数えで九歳。
人間でいえば、もう初老なんだもの。





