ゲリラライブ⑩
定時制高校と言うのは主に昼間は働いて、夜に学校で勉強する学校の事で、勿論普通の高校と同じように部活動も有る。
「定時制高校だったら、働きながら勉強して部活動もするから過去形にはならないんじゃないの?」
「まあ、理屈的には……」
甲本君の反応は、いまいち。
「昼間働いているのに、それが終わってから夜に学校へ通う事って大変だと思わない?」
「思うよ。正直、そこまでやって何になるんだって。普通に昼間に学校に行くのも面倒なのに、学校へ来る前に働いているんだろ。しかも四年間もそれを続けるんだから大したもんだよ」
甲本君は話を聞いてくれているだけで、全然興味がなさそうだった。
私が次の言葉を出すまでは。
「でも、そのうえ部活動して帰る人たちが居るんだよ」
「昼に働いて、夜に勉強したうえ更に部活まで?」
「そうよ。前にテレビで定時制高校の全国野球大会のニュースを見たわ、それに私たちが目標としている全国吹奏楽コンクールにも出れるし、定時制の全国軽音楽コンクールも有るって聞いたことがあるわ」
話しているうちに、甲本君の目が活き活きと輝いてきた。
「凄いな。働いて勉強して、更に部活動か、生半可な気持ちじゃ出来そうにねーな。俺もそんな奴らと一緒に演奏してー」
「出来るよ甲本君なら」
「出来るかなぁ」
「屹度できる。だって甲本君には情熱があるんだもの」
「情熱?」
「そう。ドラムを仕事にするっていう情熱」
「うん。そ、そうだな鮎沢の言う通りだ。俺は出来る。いや、この程度の困難を乗り越えられないとプロのドラマーになんてなれやしねー」
甲本君は、すくっと立ち上がると私に手を差し出した。
私も立ち上がって、その手を握る。
見つめ合った甲本君の目がニッコリと笑う。
「ありがとうな、鮎沢」
「いえ、そんな」
少し照れて俯く私。
「小学ん時から好きだったぜ、そしてこれからも、いつまでも」
そう言い終わると甲本君は急に駆けだした。
「こっ甲本君!」
私の声が届いたのか、甲本君は駆けたまま振り向き「江角に大切にしてもらえよー」って言って、また前を向いて進んで言った。
私は急に変なことを言われ顔が待ったになり、江角君はコホンと咳ばらいをした。





