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ゲリラライブ⑦

 コホンッ。

 江角君が咳払いをしたので、甲本君は慌てて取った手を離した。

 一瞬握られた手は、甲本君の情熱が伝わったのか、熱い。

「俺、いつまでも最初にドラムを叩いた小学校五年生の気持ちのままでいたいんだ。爺さんになって死んでしまうまで」

 甲本君って中学時代私たち女子の中では、チョット危ない系という印象が強かったし、私たちよりも早く大人になっていると思っていたけれど、こうして話を聞いてみると純粋無垢な子供の気持ちを大切に胸に抱いている人だったのだと思った。

「それで、ゲリラライブのグループに入ったの?」

「うん。あいつらは純粋にバンドが好きなんだ。自分の音を人に聞いてもらうためだったら何でもするんだ」

「凄いの?」

「凄いさ。この前なんか大型スーパーの駐車場でゲリラライブやったら物凄い数の人たちに囲まれたんだぜ!ちょっとした野外コンサートみたいだったんだぜ。鮎沢も居れば良かったのに」

「へぇー。今度時間あるときに教えてくれれば行くのに」

「時間なんて、大丈夫だよ。ゲリラライブなんてホンの二~三曲で終わってしまうから。その大型スーパーのときの三曲目の途中でパトカーが来てお終いだったのさ」

「通報されたの?」

「だろうな」

「誰が?」

「そりゃぁ、俺たちの音楽が気に入らない奴等だろ。ライブのときも嫌な顔で睨み付けて来るオバサンなんか結構いるし」

「嫌?」

「なにが?」

「演奏中に嫌な目で睨まれる事」

「最初は嫌だったけど、今はもう慣れた」

 私は鈍いから気が付かないけれど、吹奏楽部の演奏会にそんな目で睨んでくる人が居たらいやだなって言うと、甲本君は急に笑い出して「居るわけがない」と言った。

 私は不思議に思って「なんで?」と聞く。

「だって、会場に来ている人たちは鮎沢たちの音楽を聴きに来ている人たちなんだから、そのなかに聴きたくない奴なんて混じらないだろう」

「あっそうか!ゲリラライブとは違うんだもんね」

 そう言ってからシマッタと思い、顔を俯せて甲本君の顔を覗いた。

 甲本君の顔は、さっきまでの活き活きした顔から急に暗い顔になっていて俯いていた。

「ごめんなさい。私……」

 なんて言えば良いのか分からなかったけれど、相手の気分を害してしまったことを詫びる。

 甲本君は俯いたまま黙っていた。


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