ゲリラライブ⑥
「小学校五年の学習発表会で、生まれて初めて本物のドラムを叩いたとき小学生なりに“これだ!”って思った」
甲本君が話し始めた学習発表会は中学・高校では文化祭にあたる行事。
同じ小学校だった甲本君はドラムで、私はリコーダーだった。
リコーダーには少し自信があったので、誰がどの楽器をやるか担当訳をしたときに、他の楽器をやる事にはあまり興味が持てなかった。
しかし、練習が始まってから活き活きと軽快なリズムを叩き出す甲本君のドラムを聞いた時、私もドラムが叩けたらいいのになって、正直羨ましかった。
学習発表会の練習を終えて家に帰った時に、飼い始めたばかりのロンのお腹をポンポンとリズムよく叩いていたら“千春には才能がないよ”と言わんばかりにロンにソッポを向かれたのを思い出す。
「それから中学になって、吹奏楽部で毎日ドラムを叩くようになってからは、もう俺の中ではドラムの事しか考えられなくなった」
甲本君が急に合わせていた瞳を一旦伏せて、少し間をおいて言い直す。
「いや。どんな悩み事だって、このドラムが忘れさせてくれるんだ。ドラムを叩いているときだけは、とにかく何もかも忘れて夢中になれるんだ」
それを言い終わると、甲本君は再び顔を上げた。
「高校に入って、軽音楽部でドラムを叩くようになってから、なんかスゲー違和感を覚えたんだ。最初は何か分からなかったけれど、三年生の先輩が卒業するときに“あー面白かった”って言ったんだ」
「面白かった?」
私が相槌で聞き返すと、甲本君は合っていた目を逸らして少し間を開けて
「過去形にされちまったんだ」
と、言った。
つまり、現在進行形なのは高校時代だけ。
社会人になれば、学生時代の情熱なんて過去形の思い出話になってしまう。
「嫌なんだ俺。おやじみたいに酒を飲みながら会社の愚痴を言って、昔の思い出話を自慢そうに語るの」
「こんな気持ち鮎沢……分かってもらえるかな」
急に甲本君が身を乗り出してきたけれど、私はそれを自然に受け止める事が出来て返事を返す。
「うん。分かるよ。私たちはいつまでも道を歩き続けているだよね。意味は違うかも知れないけれど嫌な大人になりたくないピーターパンでいたいなって私も思うわ」
「鮎沢」
さらに身を乗り出した甲本君が私の手を取った。





