ゲリラライブ④
「それで、これからもゲリラライブをやり続けるつもりなのか?」
江角君が少し怒っているように聞くと、甲本君は覚悟を決めたかのように真剣な表情で「そのつもりだ」と答えた。
中学時代からドラムが得意だった甲本君の気持ちは分かってあげたいけれど、ゲリラライブは危なそうだし、今は楽しいからそれで良いかも知れないけれど、そのあとの事を考えると心配になる。
高校を卒業していないとチャンとした会社に入るのも難しいかも知れないし、ロックバンドってなんだか薬物とかの事件も多かった気がするし……。
屹度江角君は止めてくれる。
甲本君をチャンとした道に戻してくれるはず。
そう思いながら、江角君の次の言葉を待っていた。
「じゃあ、やれよ。思う存分に」
“えっ?”
止めてくれるとばかり思っていた江角君が、甲本君に“やれ”と言った。
“駄目よ”なんて言えない。
でも、なんで江角君が“やれ”と言ったのか不満だったし、理由も聞きたかった。
「でもな、やるからには目標を決めてここで発表しろ。いい加減な理由なら警察に突き出す」
「警察?なんで?」
「県の迷惑条例違反“公の敷地内での県の許可なき行為を禁じる”の中の“演奏等”だ。ここは県営団地だから、今からでも警察に突き出すことができる」
「俺を売るのか?」
「それはオマエの回答次第だ。後々不良になると分かっているなら早めに少年院で更生のための教育をしてもらわないといけないからな」
「きたねーぞ」
「僕は、そうは思わないね。ゲリラライブをこんな団地でやること自体間違っているだろ。団地内には夜間勤務に備えて寝ている人も居るだろうし、赤ちゃんだって居る。その中でアンプを使って自分勝手に音をばらまいたんだから、きたないのは甲本たちだと思うけど」
「くそー」
確かに江角君の言う通り。
私たちは、団地の公園から流れて来る音楽に興味をもったけれど、人が大勢住んでいるこの団地内では慎まなければいけない行為。
そして甲本君が大好きなロックミュージックの印象を、悪くしてしまう行為だ。
やっぱり江角君は凄い。
肯定してあげているかと思ったけど、全てを無条件に受け入れるのではなく、甲本君のことを考えて彼の進む道を探してあげているんだもの。
そう私が感心しているとき、江角君の口から私の名前が飛び出した。
「目標が決まったら、鮎沢に説明してくれ」と。
“えーっ!なんで私なの~?”





