ゲリラライブ②
「江角君、どうしたの」
まさか、やめとけと言い出した江角君が公園に向かい出すとは思っても居なくて声を掛けると、江角君は気が付いたように「あのリズム」と独り言のように言った。
「あのリズム?」
江角君の言う“あのリズム”が、どれを指すのか分からなくて耳を澄まして聞いてみる。
それでも分からないので、江角君にどのリズムなのか聞こうとしたところで遠くからパトカーのサイレンの音が聞こえてきた。
私がサイレンの音に気が付いてから直ぐにロックバンドの音も止まる。
それと同時に、急に江角君が駆けだした。
驚いた私は反射的に江角君を追う。
「どうしたの?ねえ江角君」
「あのリズム……間違いない」
答えを言ってくれない江角君をただ追いかけた。
公園に着くと、二十人ほどのギャラリーに囲まれた中、バンドのメンバーが慌てて止めてあったトラックに機材を積み込んでいる最中。
江角君は囲んでいるギャラリーを突っ切って、そのトラックを目指して走る。
怖いって気持ちも忘れて必死に追いかけると、江角君が逃げようとするメンバーの一人の首根っこを捕まえた。
「おい!こんな所でなにしているんだ」
“喧嘩!?”
咄嗟に、そう思い我も忘れて二人の間に割って入る。
「鮎沢!助けてくれ~」
首根っこを掴まれた坊主頭の男が私に助けを求める。
「江角君!喧嘩は駄目!」
男の前に立ちはだかって江角君を睨む。
男の後ろから「あとで、いつもの場所でな」と先に乗り込んだバンドの仲間が声を掛けてトラックの発信する音が聞こえた。
パトカーは特に逃げるトラックを追い駆けもせず「解散してくださ~い」とアナウンスするだけだった。
「殴んねーよ。それよりお前、いったいどうしたんだ?」
私を見たあとに、私の後ろに居る男に声を掛ける江角君。
そう言えば後ろの男が、さっき私の名前を呼んだことに気が付いて振り向いて驚いた。
「甲本くん!」





