らくがき⑧
聖者の行進が終わるころ、マリーを連れた瑞希先輩が来て、それから田代先輩、マッサン、山下先輩と先輩たちが続々と来てくれた。
おまけに、中学時代の吹奏楽部顧問である持田先生の奥さんの麻子さんまで。
しかも全員が、楽器を持って。
その都度どうしたのかと聞くと、全員申し合わせたように足立先輩と同じ質問を返してくる。
吹奏楽部部長が、なんで部活をサボってこの河原で練習しているのかと。
こうして集まってくれた人たちは私達の心配をして、わざわざ来てくれたのだと思うと感謝の気持ちでいっぱいになる。
それと、この人たちに連絡してくれた仲間にも。
屹度、里沙ちゃんだけじゃない。
コバも今川さんも、そして連絡を受けた先輩から他の先輩へも。
そんなことを考えていたら急に涙が出てきそうになり、みんなに見つからないように背を向けてこっそりハンカチで涙を拭った。
「よう!感動屋」
懐かしい声に顔を上げると、目の前に居たのは伊藤君。
「なんで伊藤君まで?」
驚いて声を上げてしまった。
「ラッパ手が足りてないだろ」
そう、集まった楽器は殆どが木管楽器。
茂山さんのサックスの他には金管楽器は麻子さんが持ってきてくれたホルンだけだった。
「でも、なんで?」
伊藤君は地元の学校で、近いとは言え今は吹奏楽部の部長のはず。
その部長が、部を抜け出してまで……。
「それは、鮎沢と同じ理由」
「おなじ、りゆう?」
私が聞き返した言葉をスルーして、伊藤君は加奈子さんにトロンボーンの扱い方を教え始めた。
夕方六時前に麻子さんが保育園のお迎えで帰り、それから六時を告げる屋外放送が鳴る。
それをきっかけに、わざわざ来てくれた他の人にも迷惑を掛けたくなかったから、自ら進んでこの奇妙で、しかし楽しくて優しい気持ちのこもった課外レッスンの終了を申し出た。
みんなも、まるでそれが部活動終了を告げるチャイムを受け入れる学生のように楽器を片付け始める。
その光景は、このありふれた河原が、まるで教室に変わったように思えた。
あの懐かしい音楽室の。





