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らくがき⑦

 土手の上から夜鳴き蕎麦のチャルメラの音が聞こえてきた。

 それも、どう聞いてもシンプルじゃない芸術的な上品さを兼ね備えた音色。

 聞き覚えのある優しい響き。

 見上げると、そこには予想通り足立先輩がいた。

「先輩。バイトどうしたんですか?」

 先輩じゃない、私はラーメン屋だぞ。

 なんて冗談を言って笑いながら、ラッキーと坂を下りて来る。

「バイトは、友達に替わってもらった」

「どうしたんですか?」

 変に思って聞いてみたら、逆に聞き返された。

「それを聞きたいのはこっち。吹奏楽部部長が、なんで部活をサボってこの河原で練習しているの?」

 横に居た加奈子さんが俯く。

「また木管大戦争のときみたいな対立か?それとも……」

 そこまで言って、足立先輩は話を止め急に弾けたように明るく言った。

「久し振りに一緒に練習しよう」と。

 練習を初めて直ぐに足立先輩も気が付いた。

 加奈子さんが初心者であること。

 それに、素質がある事を。

 そして足立先輩は率直にそれを加奈子さんに伝え、加奈子さんも素直に喜んでいた。

 足立先輩と一曲演奏し終わったころ、見慣れた自動車が土手を降りて来るのが見えた。

“茂山さんだ”

 でも、何故?

 茂山さんは配達中に見つけたからと、はにかむように笑いながらも既にその手にはサックスが握られている。

 嘘が下手だなと思った。

 屹度、私が部活を抜け出したことを里沙ちゃんから聞いたのだろう。

 それで様子を見に来てくれたに違いない。

 嘘の理由は、加奈子さんへの配慮だろう。

 大きな体に似合わない、茂山さんのそういう小さな気配りが好き。

「よーし。ラッパが二つになったぞー」

 足立先輩はテンションが上がって大喜び。

 吹奏楽部のOBからラッパ呼ばわりされて加奈子さんも苦笑い。

「聖者の行進やろうよ!」

 足立先輩がそういうと、何故か配達途中の茂山さんは車に積まれた段ボール箱の中から楽譜を取り出した。

 四人で一通りパートの打ち合わせをして演奏を始めると、それまでおとなしく聞いていたロンとラッキーがノリノリになってリズムを取りながら聞いてくれて、私たち(特に加奈子さん)も、それに乗せられて大いに盛り上がった。


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