らくがき②
幸い、加奈子さんの家は、私の降りる駅より二つ先だったので学校帰りにチョット途中下車するような程度で済みそう。
もっともこの日だけは、相手の家が逆方向であろうとも私の家まで引っ張ってくるつもりでいた。
私の決意が伝わったのか、加奈子さんは校門を出てからは、おとなしく付いて来る。
ハンター邸の前を通ったとき、江角君のおばさんで女医の夏花さんの姿が窓越しに見えたので会釈して通ったけれど、それ以外はただただスタスタと歩いていた。
電車に乗っても、窓の景色を見ている加奈子さんとは何も話せずに床ばかり見ていた。
「ここで降りるから、着いて来て」
そう言うのが精一杯で、いつも通る道の何処をどう通ったかも分からない。
気が付けば家の玄関を開けていた。
お母さんは、まだパートに出ていて帰っていない。
その代り、いつものようにロンが玄関に、お出迎えに来てくれていた。
ロンのキラキラと輝く瞳が、凍り付いていた私の心を溶かしてゆく。
加奈子さんが居ることも忘れてロンに抱きつくと、眼から溶けた氷の残骸が零れ落ちる。
ロンが“あなたは、だあれ?”
と、でも聞くように「くぅーん?」と喉の奥から高い声を出したところで、私もようやく落ち着いて加奈子さんに聞いた。
「今更だけど、犬は大丈夫?」
加奈子さんは驚いた顔をしてからニコッと笑い
「家はペット不可のマンションなので飼っていませんが、犬も猫も大好きです」
快活な性格を表している元気で明るい声だった。
「家の癒し系イケメン犬のロンです」
「栗原加奈子と申します」
私がロンを紹介すると、加奈子さんは人に挨拶するのと同じように名前を名乗って会釈したのが可笑しかったし、嬉しかった。
「さあ、二階の私の部屋で煤払い始めるよ!」
「ハイ」
元気な声と共に二階に駆けあがる。
もちろんロンも元気よくついてきた。





