表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
357/820

らくがき①

「見せて」

 見るのが怖かったから、声も小さく震えた。

 加奈子さんの手が、拒むように私の手を抑えてきたけれど、構わずにケースを開ける。

 目に見えたのは、落書きだらけのトロンボーン。

 私は、書かれた落書きを読むことをせずに直ぐケースを閉じると、そのまま加奈子さんの手を引いて部室から飛び出す。

 部室を出るときに、まだ入り口に置いたままにしていた鞄を掴んだ。

「千春」

 後ろから掛けられた里沙ちゃんの声に“ゴメン”と答えるのが精一杯だった。

 音楽準備室から出てきた江角君が驚いたように私を見ているけれど、なにも応える事が出来ないし、眼も合わせられない。

 江角君に何か声を掛けようとしたら、その声は嗚咽に変わるだろう。

 そして、江角君の瞳を見たら、屹度目から涙が零れて止まらなくなるだろう。

 私は振り向きもせず、ただ真直ぐと前を向いたまま加奈子さんの手を取って大股で歩き、そのまま校門を出た。

「どこに連れて行くんですか」

 校門を出たところでかけられた加奈子さんの声でようやく気が付く。

 私が彼女を連れ出したわけを。

「家よ」

「家?」

「そう。私の家。元通り、綺麗にしなくちゃね」

「クリーニングセットなら私の家にもありますし、鮎沢部長は吹奏楽部にとって大切な方なのだから部活に戻って、みんなを見てあげて下さい。私みたいな初心者に構っていては駄目です」

「誰でも最初は初心者よ」

 そう言うと、再び加奈子さんの手を掴んで歩いていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ