さくら⑥
背の小さな新入部員、名前は堀江勝くんを青山君に頼んで練習に連れて行ってもらった。
担当楽器はクラリネットと書かれてあるので、木管グループで問題を起こすのではないかと少し不安になる。
中村先生が練習の応援で抜けてしまってからは“てんてこまい”
それにしても今年の入部希望者は多くて、この人数だと先生が言うように大編成のチームを余裕で二つ作れそうだ。
受け付け開始から約1時間。
やっと入部希望者の受付が片付いて、のんびりできる。
思いっきり背伸びをして、別の机に居る江角君のほうを振り向くと、休む間もなくテキパキと片付けをしている。
私も、のんびりしちゃいられない。
そう思い、片付けに取り掛かろうと思ったところ、廊下の角でこちらを見ている女の子が居ることに気が付いた。
前を揃えたセミロングの髪に細い眉、真新しい白いブラウスが透明感のある彼女をより透かして見せている。
そういえば、彼女、最初からあそこに居た。
時折体が揺れているのを不思議に思いながら見ていると、お互いに目が合ってしまい少し気まずい。
ペコリと会釈してから、江角君に助けを求めようと思って振り向くと、もう机も片付けられていていなかった。
どうしたものだろう。
おそらく入部希望者だと思うのだけど。
“もし、私が彼女の立場だったら、どうして欲しい?”
そう自分に問いかけてから、ゆっくりと立ち上がった。
彼女を目指してではなく、彼女の居る廊下の向こう側に行くふりをして。
目は合わせない。
警戒されると困るし、理由を聞く前に逃げ出されたら大変だから。
彼女の視線が恐る恐る私を捕らえているのが分かる。
私は、お手洗いに行くような自然な雰囲気で彼女の視線の相手をしない。
横に並んで通り過ぎるとき、彼女の後ろにもう一人女の子が居て、その子が突いていたから彼女が揺れて見えたのだと分かった。
通り過ぎそうになって初めて振り返り、先ず彼女を突いていたほうの子に声を掛けた。
「もしかして、入部希望ですか?」





