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さくら⑤

 新入部員の受け付けは、今年も盛況で多くの入部希望者が列を作っていた。

「今年から大編成を二チーム組めそうね」

 新任の中村先生が、手伝いながら嬉しそうに言う。

「そう言えば、中村先生は音大で主に何の楽器してらしたんですか?」

 中村先生から、まだ誰も練習の時に指導を受けていないので不思議に思って聞いた素朴な疑問。

「コントラバスよ」

「あーっ、あの大きいの」

「そう、その大きいの」

 二人で盛り上がっていたところ、目の前に入部届を突き出されて驚いた。

「練習から外されたんなら、チャンと受付ぐらい真面目にやれよ」

「えっ?ハ・ハイ。すみません」

 突き出された入部届を手に取り、それから声の主を見上げる。

 横柄な物の言い方から、大きな人を想像していたので目が天井を捕らえてしまい、そこから目を下げると、小さい男子が偉そうに立っていた。

「バレーじゃないから、背は関係ないですよね」

 私の目の動きから察した不機嫌そうな声。

 確かに吹奏楽部に背丈は関係ない。

 それにしても華奢で、女の子みたいな男子。

 ただし態度は最低。

「もう、入部届受理したんでしょ。案内くらいしたら?」

「えっ。あっ、ハ・ハイ」

「もう、いいよ。あんたじゃ話にならないから部長呼んで、部長」

 男子は苛立ったように、低い背を伸ばして部室の奥を覗きながら言った。

「部長?」

「そう。部長さん」

 どうしたものだろうと困っていると、隣で中村先生がクスクス笑いながら私の袖を掴んで持ち上げる。

 私も、それに抵抗せずにダラリと手を上げた。

 目の前に上げられた手を怪訝そうに見つめながら男子はもう一度言った。

「ふざけていないで、部長さん呼んで」

 とうとう中村先生が大笑いしだして「あんたの目の前に居るのが、部長さんよ」と言うと、男子は驚いて私を見て呆然としていた。

「すみません。部長の鮎沢です……」

 私は、小さな声で挨拶した。


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