さくら③
好きな曲、思い出の曲を何曲か演奏した。
今年は伊藤君も地元の高校で部長を務めると言うことで、二人で全国大会を目指そうと誓い合い、最後に桜の木をバックに全員で記念撮影した。
「じゃあ、またねー」
南副部長と山下先輩が手を振って帰る。
「じゃあな」
江角君と伊藤君が帰る。
指を二本だけ伸ばして敬礼みたいにチョンとする江角君と、それを真似て似合わない伊藤君。
「失礼します」
そう言って今川さんと宮崎君が帰る。
「またね」
里沙ちゃんと茂山さん、それにマッサンとコバ、田代先輩が帰った。
河原に残っているのは犬を連れた足立先輩と瑞希先輩、それに私。
三人と三匹で河原を散歩する。
お互いに仲良く遊びながら歩く犬たちを眺めていた。
「マードック、なんでやらなかったんだろう?」
足立先輩が言った。
マードックとは、今年の勝負曲として選んだ“マードックからの最後の手紙”のこと。
この曲は出だしのフルートのソロが難しくて、クラリネットなど木管パートはかなり技術が必要になる。
鶴岡部長はボレロがやりたかったと言っていたけれど、あの年なら木管には相当なレベルの先輩たちが居たはずなのに。
「百瀬。あんたの年でも良かったはずよ」
足立先輩が瑞希先輩に話を振ると、瑞希先輩は困ったような顔をして「私はカノンがやりたかったから」と答えた。
「まったく……」
足立先輩が本気で心配してくれるのは有難いし、心配する理由もよく分かる。
だって、この曲に肝心なフルートの名手は今年卒業してしまったのだから。
ロンたちは、なにも心配することもなくただ遊んでいる。
「大丈夫です。なるようになります」
私も足立先輩と同じように“マードックからの手紙”を選んでおきながら心配していた。
選ぶときにイメージしていたのは冒頭の瑞希先輩のフルートのソロや山下先輩やマッサンのフルート、足立先輩のオーボエだったから。
でも、いま目の前で遊ぶロンたちの姿を見て、気持ちが変わった。
「ケセラセラ」
瑞希先輩が言うと「あーっケセラセラかぁ」と足立先輩も晴れやかに言った。
「まだ来てもいない未来を憂いてみても仕方ないもんなっ」
今年は例年になく、温かく桜の開花が早く、河原に咲いた桜の花が春の暖かい風に舞っていた。





