晩秋から春へ⑧
参拝を終えた私たちは、桜木町駅を通り過ぎ、馬車道を通って山下公園に向かった。
晴天の陽が暖かく、正月らしい晴れやかな陽気。
馬車道を通り過ぎると急に潮の香りが濃くなり、それからしばらく歩くと建物が消え、見晴らしが良くなり広い山下公園に到着。
みんなで海を眺めた。
程よい潮風が心地好い。
「あー久し振り。横浜の臭いだぁ」
京子ちゃんが大きく息を吸いながら言った言葉があまりに動的だったので、瑞希先輩たちが福岡も海が近いでしょと不思議そうに聞き返した。
「海が違うの」
「海が?」
私は太平洋と日本海の違いかと思って聞いたつもりだったけれど、それは違った。
「産まれ育った海と、借ものの海」
私は神奈川から出たことがないから分からないけれど、他所に出て行った人には懐かしく染みついたものがあるんだと、その爽やかな京子ちゃんの横顔を眺めていた。
「帰りたいなぁ」
ポツリと言った言葉。
双子の姉と愛犬の両方の命が突然奪われて、その面影から逃げるように九州に出て行ったと名古屋の全国大会の時に聞いた。
それでも、本当は帰りたいんだな。
「ねぇ。私、今日このあと千春の家に行ってもいい?ロンに合ってみたいの」
短編(に、なる予定)「禁じられた恋」の連載を始めましたので、よかったら是非読んでみて下さい。





