晩秋から春へ②
隣で話を聞いていた里沙ちゃんは、分かったみたいに頷いていた。
「だから土方歳三なのね。そして千春が近藤勇」
「そう、そう」
「じゃあ沖田総司は?」
「そこがまだ足りないのよねぇ~」
「藤堂平助はコバでしょ。じゃあ永倉新八はマッサンね」
「でも、卒業しちゃうよ」
「あちゃ~作り直しかぁ」
里沙ちゃんが、おでこに手を当てて悔しがっている。
里沙ちゃんと瑞希先輩が吹奏楽部を新選組に見立てて面白がっていた。
家に帰って直ぐロンと散歩に出た。
散歩中にロンに、しっかり部長としてやっていけるかどうか相談したけれど、ロンはくだらないと言わんばかりに相手にもしてくれない。
まあ、まだやり始めてもいないことを心配してもしょうがない。
屹度ロンも、そう言いたいのだろう。
家に戻りロンの体を拭いているときに、足立先輩がラッキーを連れてやって来た。
「部長おめでとう」
足立先輩は開口一番、私の部長就任を祝ってくれた。
「私も鮎沢が部長になれば良いのになと、思っていたんだ」
「ありがとうございます」
と、返事をしたけれど、なんでもう知っているのだろうと不思議に思っていた。
「百瀬から聞いたし、実はその百瀬から事前に相談も受けていたんだよ。だから私は、鮎沢が部長になれば良いなって、推しといたから」
「えーっ。でも江角君のほうが」
「江角が生きるのは、好きな人のサポートに回るときに、その良さが最大限に生きると思うんだ」
そう言われて、顔が真っ赤になるのが自分でも分かった。
「好きだなんて、違います」
慌てて言い返すと、
「あいつ我儘な所があるけれど、それが彼の良さだから、それを生かすのは副部長としての立場。そのためには彼がもっとも信頼できる人物が部長でないと」
そう言われてみると中学時代、江角君の部長としての行動は、それ以前に比べ大分抑えているところが多かったと思う。
それにしても、わたしなんかが信頼できる人物に値するのかな?
そう思っていると、ロンが急に顔を上げて私の頬をペロッと舐め、それを見た足立先輩が「ほらね。鮎沢より、ロンのほうがよっぽど鮎沢のこと分かっている」と笑っていた。
足立先輩は、少し話をして直ぐに帰って行った。
まだ不安を抱えていた私に、ロンは大きな瞳をみせて「大丈夫」って言った気がした。





