晩秋から春へ①
学校からの帰り道、ハンター邸の前を通りながら瑞希先輩と話していた。
副部長には江角君が着いたこと。
中学のときとは逆。
「江角君には土方歳三になってもらうの」
「土方歳三?」
たしか幕末の新選組に居た人だと、中学の修学旅行の時に里沙ちゃんから聞いたことがある。カリスマ的、副隊長。
「そう。副部長としてガンガン部員を、しごいてもらうわ」
「でも、それなら部長としてでも構わないんじゃ……」
「部長が部員から嫌われちゃ駄目でしょ。だから千春が部長なの」
「それじゃあ江角君が可哀そうです」
実際、私は人に嫌われる勇気はないから、当たり触らずで何の取柄もない部長としては出来るかも知れない。
「鮎沢は屹度そう言うと思うけれど気にしないで、って」
「えっ」
何のことか分からなかった。
「江角君にね、副部長を依頼した時に彼が言っていた言葉よ」
「江角君には相談していたんですか」
「もちろん。彼がこのポジションを引き受けるかどうかが、この人事の鍵だったから」
「鍵?」
「そう、鍵よ。江角君のほうも、それは分かっていたみたいで、私が相談しに行ったとき直ぐに受けてくれたわ」
いつも分かりやすく説明してくれる瑞希先輩の言葉なのに、今日に限って意味が分からない。
「鍵って、なんですか?」
私が聞くと、瑞希先輩は悪戯っぽく笑顔を見せて
「本人の口から聞いてみて、彼のほうが私より理解していたみたいだから」
と、はぐらかされた。





