バトン⑪
前に出て瑞希先輩からの任命を受けるとき、江角君の顔を見た。
笑ってはいない、そして怒っても、不貞腐れてもいない。
そこには何か決意を固めたような、真剣な眼差しがあった。
“しっかり、やれ!”
そう言われている気がして、コクリと頷いて見せると江角君のほうも頷き返してくれた。
急に胸の奥からマグマが込み上げて、体中に回り体も心も熱く、そして勇気と自信が湧き上がる。
「みんな、これからは鮎沢の指示に従い協力し合って、今年達成できなかった目標を目指すように」
瑞希先輩の声を聴きながら、江角君の真剣な目名指しから目を離せないでいた。
“なぜ江角君じゃなくて、私?”
心の中で問いかけると、それが通じたのか江角君の口が微かに動いた。
“全国大会へ導けるのは、俺じゃなくてお前だ”
そう言われた気がして、ドキッとして背筋を伸ばした。
江角君の言葉に答えるため、もう一度コクリと頷く。
拍手が沸き上がり、その音の振動が胸に響く。
私にやれるのだろうか?
から、私がやらなければ。
いや。
私は、やるのだ。
と、決意が固まる。
窓の外には、秋の青く濃く、高い空。
私はそれを見上げ、
その濃い青よりも
その高さよりも
もっと、もっと上にある昼間の宇宙を見上げていた。





