バトン⑥
「分かるのね。あなたには臭いで全て、分かるのね」
ロンの横に寝そべって、顔を近づけ頭を撫でた。
嬉しかった。
一緒に居なかったのに、ロンには私の事も友達の事も全て分かっていること。
横に添い寝していると、ヌッとロンの顔が近づいて目が合う。
見つめ合う瞳の距離は、おでこがこすれ合う程近い。
いつまで経っても変わらない好き通った純真な瞳。
そのままロンが、すり寄って来て私の胸に乗り、その頬を両手で支える。
ロンの瞳は私を捕らえて離さない。
「なぁに?」
甘えた声で尋ねると、ロンは私の顔をペロリと舐めてきた。
そう言えば、このところ忙しくてゆっくり触れ合う機会がなかったなと思う。
「甘えていいよ」
ロンはもう一回優しくペロリと私の顔を舐めた。
目を瞑り受け入れると、急に胸の上に乗せたロンの重さが増す。
心地よい重さと温かさが胸に伝わってくる。
ロンは私の疲れを癒すように、ゆっくりと何度も何度も丁寧に優しく顔を舐めてくれた。
簡単な夕食の準備を終えたお母さんが台所から出て来て、その光景を見て言った。
「あなたたち、いつまでも仲の好い新婚の夫婦みたいね」
と。
食事を済ませ、お風呂から上がった頃には時計の針はもう十二時を回っていた。
夜遅いので、久し振りにお父さんと一緒にロンの散歩。
夕方に一度、お父さんが散歩に連れて行ってくれたみたいだったけれど、ロンは大喜び。
いつも休憩するベンチに腰掛け、夜空を見上げると翼端灯を点滅させた飛行機が東の空に向かって飛んで行く。
美樹さんは、あの飛行機に乗っているのだろうか?
帰国した僅かの時間を割いて、私たちの演奏を聞きに来てくれたのを有難く思いながら、飛んで行く飛行機を追っていた。





