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バトン⑤

 玄関のドアを開けると、真っ先にロンがお出迎え。

 飛びついちゃ駄目って、ちゃんと躾してあるのだけれど私が家を空けた後は我慢ができなくて飛びついて来る。

 嫌ではなく、(むし)ろ嬉しい。

 私の胸まで届くロンの頭を抱きかかえてクシャクシャに撫でて、お互いに再会の喜びに浸った。

 ふたりの抱擁の時間が終わると、今度はロンによる検閲タイムが始まる。

 私の服や体に着いた臭いをくまなくチェックするため、体の周りをあちこち嗅ぎまくる。

 制服に付いた臭いで、私が誰と合ってきたなんかが分かるのだろう。

 もう美樹さんの臭いを見つけたのかな?

 君はまだ美樹さんの事を覚えているのかな?

 沢山の臭いの付いた私の制服のチェックは、いつも以上にロンには興味深く謎に満ちているのだろう。

 私がどこで誰と合って何をしていたのか、ロンはまるで臭いを嗅ぎ分けながら名探偵シャーロック・ホームズのように推理を楽しんでいるのだ。

 ロンの鼻が、制服のポケットで止まり、その長い自慢の鼻を中に押し込もうとしてくる。

 古矢京子から渡された、リードの入ったケースだ。

 手の使えないロンの助手として、代わりにポケットからケースを取り出して名探偵の前に差し出す。

 お目当ての物が手に入ったロンは満足気に、そして調べるようにケースの臭いを嗅ぐ。

 彼がどのような推理に至ったのか、その内容は教えてはくれない。

 ロンの手が私の手を取り、ケースを降ろすように指示する。

 私は従順な助手のように、その指示に従う。

 ロンは床に置かれたケースに、自分の臭いを押し付けるように何度も頬を寄せていた。

 屹度ロンには分かったのだ、このケースの本当の持ち主と、その家で可愛がられていた犬のことが。

 私はケースを抱いているロンに寄り添うように姿勢を低くして座り、その顔を覗き込む。

 ロンの顔は悲しそうだった。


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