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バトン②

 大会が終わり、機材をバスに積み込んでから、みんなで騎馬像の前で記念撮影するために移動していたとき、テレビ局の取材に囲まれているS女が見えた。

 そのS女の中でも、ショートボブで一瞬モデルかと見間違えるほど目鼻立ちのスッキリした古矢京子は目立つ。

 私が古矢京子を見つけると、直ぐに相手も私に気付いた。

 手を振ろうかと思ったけれど、躊躇って会釈だけ。

 古矢京子も手は降らずズッと、その大きな瞳で私の姿を追っている。

 心なしか、その表情は硬く感じられた。

 記念写真を終えてバスに移動するときに、美樹さんが訪ねて来てくれた。

 美樹さんから、技術的なことは分からないけれど吹奏楽で初めて聞いたカノンに感動したと、みんなに聞こえるような大きな声で褒めてくれる美樹さんの気持ちが有難い。

 全員がバスに乗り込み、エンジンがかかる。

 ゆっくりと動き出すなか、美樹さんの手を振る姿が次第に遠くなり、角を曲がって見えなくなる。

 シートの背もたれに体をあずけ目を閉じて溜息をついたとき、誰かに名前を呼ばれた気がしてバスの中を振り向いたけれど、誰も私を呼んではいない。

 もう一度声がした。

 声は確かに“ちはるー”と、私の名前を呼んでいる。

 走っているバスから窓の外を見ると、古矢京子がバスを追いかけて走っているのが見えた。

 鮎沢と千春。

 私の苗字と名前を交互に呼んでいた。

 思いっきり走っているのに遠ざかって行く古矢京子の姿。

 まだゆっくりだけど走っているバスのほうが、はるかに速い。

 窓を開けようと一瞬考えたけれどやめた。

 走る車から顔や手を出すことは危ない。

 代わりにバスを止めてもらう。

 いつもなら躊躇って出ない言葉が、自然に口から出た。

 ドアを開けてもらい、私も追い駆けて来る古矢京子に向かって走る。

 お互いに走ったものだから、ちょうど会うときにお互い抱き合った。

 長い距離を追いかけて来た古矢京子の息は弾んで、体の力を抜くようにしがみ付いて来て、私もそれを受け止める。

「貰ってもらいたいものがあるの」

 苦しい息の中、古矢京子が言った。


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