古矢京子⑬
白い布を被せられた人が、鉄パイプで作られた冷たいベッドに仰向けで寝ている。
ここまできても、白い布を捲ると涼子姉さんが冗談を言って笑わせてくれると期待していた。
しかし、恐る恐る捲った白い布の向こうにあったのは、頬に擦り傷を負った涼子の顔。
「涼子姉さん」
呼んでみてもピクリとも動かない。
「涼子姉さん」
思いっきり叫んだ。
叫んでも、叫んでも、叫んでも、涼子姉さんが目を覚ますことはなく、私はベッドに突っ伏して泣き崩れた。
お父さんが来る頃には姉の死を受け止める事ができ、ようやく事故の状況を聞くことが出来た。
姉はリョウとの散歩中、歩行者に気付かず進入してきた車にはねられたと。
「リョウは?リョウは無事なのよね!」
お母さんは首を横に振り、そして私はパニックに陥る。
「リョウは何処?なぜ病院に居ないの?」
「リョウは即死だったらしく警察の人が保健所に連れて行ってくれたわ」
私たち家族は、この日、二つの大切な命を失った。
いつも一緒に学校や塾に行っていた姉の涼子が居ない日々と、家に戻ったらいつも嬉しそうにお出迎えしてくれたリョウの居ない日々。
当時のままの姉の部屋と、玄関に掛けられたリョウの首輪とリード。
そんな毎日の光景から逃げ出したくて、県外の高校に出た。
音楽に打ち込むことで全てを忘れるため。
夢中で練習して、一年生で大会メンバーに選ばれた。
そして、鮎沢さんの音と出会う。
その音を聞いて、直ぐに涼子の音だと思った。
涼子はいつもリョウのために吹いていたから。
古矢京子は、そこまで話すと私の手を取りニッコリと微笑んでくれた。
短い犬の命と、共に時を流れていくはずだった双子の姉の命。
古矢京子はある日突然、かけがえのない命を二つも同時に奪われてしまったのだ。
なんて声を掛けてあげれば良いのか分からない。
あれは私が悪かったことだけど小学生の時、ロンが車に尻尾じゃなくて体をはねられていたら古矢京子と同じ悲しみを背負って生きていたに違いない。
そう思うと、思わず彼女の手を握っていた。
「ありがとう」
古矢京子が言った。





