古矢京子⑩
演奏を終え、オーボエのリードから口を離し、最後の息を空に向かって吐き出す。
空に向かう息は少しだけ白っぽく見え、空の一部に溶けるように消えて行った。
いつの間にか近くに集まっていた人たちから、思いがけず拍手をもらい少し恥ずかしい。
「どうだった?」
恐る恐る古矢京子のほうに向き直る。
彼女は俯いていた姿勢を正し、驚くほど真直ぐな目で私を見つめて来た。
そして、その目は涙の湖で揺れていた。
「ありがとう。やっぱり演奏してもらって良かった」
そこまで言うと古矢京子は、堪えられなくなり私に抱きついて来て泣いた。
「なにがあったの?どうして私なの?」
もともと、なにかあると思っていたので聞いた。
「もう少し、もう少しだけ」
嗚咽の中から絞り出すように答える声。
「うん、いいよ」
私の胸で泣いている古矢京子の髪を、そっと撫でながら応える。
古矢京子は暫くの間そしていて、その間に私たちを囲んでいた人たちはスッカリ居なくなっていた。
「大丈夫?」
体を起こそうとする古矢京子の顔を覗きこみながら聞くと、彼女は子供のように手で涙を拭いながら有難うと礼を言ったあと、分けを話してくれた。





