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古矢京子⑨

「ハイ、では改めましてお願いします」

 手にリードを渡された。

 私は渡されたリードを、そっと唇に添え、くわえる。

 いつも自分で作っているものと似た不思議な感触。

 古矢京子の思いを自分の中に吸い込むように空気を取り入れ、そして、その思いを壊さないように丁寧に息を音に変える。

 いつもと変わりなく、ごく自然にブーっというリードの音が出るだけ。

 でも、直ぐに分かった。

 いつもと違うこと。

「ちょっと待っててもらえる?」

「うん、いいよ」

 私は慌てて皆の所に戻った。

「あっ・千春、京子ちゃんには会えた?」

 直ぐに里沙ちゃんが私を見つけてくれた。

 屹度、心配して気にしていてくれたのだろう。

 私は「うん」とだけ返事をすると、自分の楽器ケースを掴んで慌てて踵を返した。

「お待たせ」

 そう言うなりケースを開きオーボエを組み立てて、それにさっきのリードを挿す。

 今度は、このあたりに漂う“気”の全てを吸い込むように大きく息を吸い込んだ。

 そして古矢京子のリードに優しく息を通す。

 ロンの大好きな“風笛”。

 遠く離れているロンに届くように、重く静かに演奏してみる。

 リードは正確に高音から低音まで、少ない息でスムーズに再現してくれた。

 この音ならこの愛知県から静岡県……いや、富士山や箱根の山を飛び越えて神奈川県の私の家にいるロンにまで届きそうな気がする。

 折角リードを作ってくれた古矢京子には申し訳ないけれど、ロンに思いを伝えるためだけに集中して演奏した。

 耳の良いロンの事だから、今頃は一階の居間の窓際から、私の音を運んでくる空を見上げているだろう。

 私も、音の魂を空に乗せるように演奏した。


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