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古矢京子⑧

 人通りの少ない昼の通路は、朝の混雑していた時とは、どこか表情を変えて物静かで寂しい感じ。

 その通路の奥に、外光を背にして壁に寄りかかっている古矢京子がいた。

 通る人もなく静まり返った通路。

 廊下に反響する私の靴音が止った時を刻むように響く。

 外から入り込む騒めきが、まるでワザとピントをぼかした背景のように彼女の存在を引き立てる。

 薄暗い廊下にさす光。

 外の景色は明るさで色が飛んでしまい、灰色の通路に立つ黒いシルエットを余計に浮かびあげて、それはまるで有名な写真家の撮ったポートレート。

 シルエットは、少し俯いていた顔を私のほうに向けて起こす。

「鮎沢さん?」

 恐る恐る聞くような声は、無機質に包まれていた空間にホッと花を添えた。

「鮎沢です」

 ハイと応えても良かったのだろう。

 いや、寧ろハイと応える方が自然だったと思ったけれど、自分の名前で応えた。

 二人で、外に出た。

 私を外に連れ出すとき、古矢京子は私の手を取り優しく引いた。

 まるで、仲の好い子供たちがそうしていたように。

 腰掛けるのに丁度いい石段に二人で腰を降ろす。

「嬉しい。ありがとう」

 まだ私の手を離さないまま古矢京子が明るく言った。

 ハッキリとした口調の中に、どこか甘いものを感じる。

「なんで、私を?」

 とりあえず私から、最初出会った時から疑問に思っていた事から聞かせてもらうことにした。

 古矢京子は、照れを隠すようにニコニコとした笑顔を見せて

「好きになっちゃったんだもん」

 と、子供のように答えた。

 そう、そこにはさっきまでホールで演奏していた可憐な白いバラの雰囲気はない。

 今あるのは、幼さだけ。

 コスモスが良く似合いそうな感じ。

 好きになったと自然に、しかも同性から言われるとは何とも奇妙な心持ち。


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