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古矢京子④

「かくすすこと、なかとに」

「いなかもんやけんってバカにしとうと?」

 また輪の中の雰囲気が悪くなった。

 悪いニュアンスだけ伝わり、言葉の意味が曖昧にしか摘まめないのは辛い。

 同じ言葉で返せないことに引け目を感じてしまい、余計に上手く伝えることが出来ない。 

 確かに学校が終わってからも練習はしている。

 ただし、それには彼女たちが望むような先生はいない。

 居るのは、ロンひとり。

 毎日、犬に聞いて貰っています。

 なんて言ったら、余計雰囲気を悪くするんだろうな。

 そう思って答えられずにいたとき、急に里沙ちゃんの声が響いた。

「千春の先生はロンよ!」

 声と同時に、里沙ちゃんは輪の中を割って入って来きて、私に寄り添ってくれた。

「ロン?」

「RON?それともR・O・N」

「R・O・Nって、アニメ曲のR・O・Nやなかん?」

「やっぱ東京は、すごかね!」

 なんの話になったのか全く分からないで驚いていた私の代わりに、また里沙ちゃんが説明してくれる。

「ロンは、千春の家で飼っている犬。鮎沢さんは、毎日この犬のロンのために演奏しています」

「えーっ」と言う声のあと、ざわめきがおきた。

「そもそも、あなたたちは千春に何の用があったの?」

 里沙ちゃんの言葉に、ざわめいていた輪が静かになり、その沈黙を破るように古矢京子が理由を話しはじめた。

「実は、去年の大会で鮎沢さんのオーボエの音色に恋をしてしまって……」

「えっ?去年の第一オーボエは足立先輩よ」

 ソロを演奏した足立先輩の音色に憧れたのなら分かるけれど、この広いホールで合奏の中に紛れる私の音色に恋をしたなんて屹度間違いに違いないと思って言った。

「いいえ、そのとき名前は知らなかったけれど、たしかに鮎沢さん、あなたの音色に間違いないわ」

 古矢京子は、真面目な顔で私を見つめるとハッキリと、そう言うといつの間に手に持ったのか目の前にオーボエのリードを差し出す。

 そして言った。

「鳴らしてみて下さい」と。


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