古矢京子②
「初めまして、S女二年生の古矢京子と言います。担当はトロンボーンをしています」
その生徒は私のすぐ近くまで来ると、逸らしていた視線を真直ぐに向きなおし、明るい良く通る声で自己紹介をしてきた。
他校の生徒から、しかもあの有名なS女子校のレギュラー部員から挨拶を交わされるなんて、正直驚いた。
「初めまして、青葉台二年生の鮎沢千春と言います。担当はオーボエです」
驚いたままの頭で、とっさに返した言葉は、さっき古矢京子が話した言葉のコピー。
固有名詞を入れ替えただけ。
私が言葉を返すなり古矢京子は、反対の廊下の端で見守っている仲間のほうに振り返ると軽くガッツポーズを見せる。
すると、それを合図に仲間の一団が急に明るい歓声を上げた。
それに驚いた人たちが歓声が上がった方を振り返ると、彼女たちは優しいお母さんに悪戯がバレてしまった子供の用に首をすくめて一旦静かになった。
しかし何か嬉しそうな雰囲気は、歓声を上げたときから変わっていない。
「ちょっと良い?」
古矢京子はそう言い返事も待たずに私の手を引く。
あんまり突然の事だったので抵抗することもできず、引かれるままにS女の中に取り込まれる私。
入るなり、彼女たちは私を囲むように輪になった。
「お待ちどうさまです。青葉台高校去年の第二オーボエ、鮎沢千春さんです!」
古矢京子が、そう私の事を紹介するなり、囲んだ彼女たちはまた歓声を上げた。
「もちろん今年は第一オーボエですよね」
マイクもないのに、まるでマイクを持っているかのような仕草をして古矢京子が聞いてきたので、一応間違いではないので「そうです」と答える。
するとまた輪の中から歓声が上がる。
何が何だか分からない。
助けを呼ぼうと、里沙ちゃんを探そうとしたけれど、いつの間にか私を囲んでいる輪は二重にもなっていて外の様子が分からなくなっていた。





